2023年05月16日

父の兵隊の記憶 10 船が沈んでから

矢矧が沈没して、長い時間海の中にいた。

四月のまだ寒い時である。

ずっと足を動かして浮いているのがえらくて、

「もういかん、もういかん・・・・」 と声を出していると、

近くにいた、同じ砲塔の班の山内二等兵曹が

しっかりせんかと、海藻を団子にした物を少し分けてくれた。

そうしているうちに、暗くなる前、駆逐艦が助けに来てくれるのが見えた。

それは本当に嬉しかった!

ロープを輪にして投げてくれて、それを脇の下に回し入れて、

引っ張り上げてもらった。

みんな、重油で真っ黒であった。

船に上がってからは、班長や他の人の世話をしてあげた。

動けない者もいた。

同じ砲塔の者は、みんな助かっていた・・・と思っていたが、

半分ぐらいになっていた。


船が沈んでから、佐世保の海兵団にいた。

十日間は、外出禁止であった。

敵にやられたのがバレるからである。


一週間後に、佐世保の山手に、防空壕掘りに行かされた。

二十四時間三交替制である。

同年兵の石橋も一緒であった。

与えられた服は一着だけで、洗い替えは無かったので、

外出する時は、前の晩に汚れた服を洗って、朝、生乾きを着て出かけた。

外出は、四日に一回で、外で飯を食べたりしたが、良い物は無かった。

隊の中で食べる方がマシであった。

玄米食も食べたが、量は少なかった。


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Posted by まこさく  at 18:18 │家族